神様修行はじめます! 其の五
「そんな恐ろしいこと、絶対にさせないから! あたしが現世に手出しはさせないからね!」


 声を限りに叫びながら、ふと脳裏に疑問がよぎった。


 でも、どうして? 地味男の目的は水晶さんの復讐のはずなのに。


 水晶さんの復讐と現世を襲うことと、なんの関係があるっていうの……?


『水園、さあ、怖がらないでやってごらん』


 緊迫した空気の中、場違いに優しい声がして、みんなの意識が一斉にそちらに向かった。


 人形の女性……クレーターさんの奥さんの水面さんが、幼い水園さんに話しかけている。


 ふたりの長い黒髪がユラユラと不規則に靡いているのは、たぶん水の揺らぎによるものだ。


 この目の前に広がる光景は、水園さんの実際の記憶。


 かつて太鼓橋の水底の世界で存在した情景が、水絵巻を通して舞台のように繰り広げられているんだ。


『そうよ。そうやって手の指を組んで……そう、気持ちをひとつにして』


 水面さんが水園さんの手をとって、指一本一本を丁寧に動かし、印を組ませている。


 きっと術の練習をしているんだろう。水園さんは言われた通りに印を組み、目を閉じて意識を集中している。


 クレーターさんは今にも泣きそうに切ない表情で、亡き妻と、幼い娘の交わすやりとりを眺めていた。


「水面……」


 思わず伸びたクレーターさんの手が、ふと、止まった。
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