神様修行はじめます！　其の五
「クレーターさん？　どうかしたの？」


　オズオズと気を遣いながら声をかけても、クレーターさんは答えない。


　その眉間に不審な影が浮かんでいるのを見て、あたしは無意識にクレーターさんの視線を追った。


　クレーターさんは、幼い水園さんを見ていた。


　正確には、水園さんが組んでいる印を。


　最初は、なにをそんなに不審な目つきで眺めているのか理由が分からなかったけど、あたしもすぐに違和感に気がついた。


　……おかしい。


　術が発動しない。


　いつまでたっても、なにも起きない。


　さっきからずっと印を組んで精神集中しているんだから、さすがにそろそろ発動してもいいはずだ。


　なのに発動どころか、なにかの力が作用する様子すら見えない。


　どうしたんだろう？　まだ小さいから神の一族の能力に目覚めていないのかな？


　いや、そんなはずはない。雑種のあたしですらこの水園さんくらいの年頃には、ほぼ無意識に一発で力を発動できていた。


　純血の神の一族なら、もっともっと赤ちゃんの頃から能力の兆しが現れているはずなんだ。


　なのに、どうして？


「…………」


　沈黙がこの場を支配し、重苦しい気配が周囲を包み込む。


　その疑問が導く答えはひとつしかないと、みんなが知っているからだ。


　クレーターさんの強張った表情を盗み見るあたしの心臓が、ドクドクと不穏な鼓動を打つ。


　水園さんは……水園さんは……。
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