神様修行はじめます! 其の五
「水園には特別な待遇を与えていたのだ」


 娘を見つめたままのクレーターさんが、心ここにあらず、な声でポツリと言った。


「水園は幼い頃から、きっと将来は門川の正室候補になるだろうと期待されていた。だから万が一のこともあってはならぬと……」


 万が一にも、水園だけは命を落とすようなことがあってはならない。


 だから彼女だけ特別に、過酷な宝物づくりの役目を免除されていたんだ。


 能力を披露する機会が一度もなかったのなら、秘密がバレなかったのもわかる。


 そもそも、彼女の能力を疑う者などいるわけがない。


 類まれなる美貌。才学非凡な聡明さ。彼女こそは『選ばれし者』だった。


 稀代の才媛と称賛される水園さんが、まさか『持たざる者』だなんて夢にも思わない。


 だからこそ父親は身を切るような苦悩の果てに、姉ではなくて妹の命を犠牲にした。


 なのに……。


「水園殿には、守られる資格など無かったのですよ」


 低く、静かな声がする。


 それは怒りなのか、悲嘆なのか、非難なのか、弾劾なのか。


 それらすべての限界を超えて、もはや無表情になった男が鉛のように重苦しい言葉を放つ。


「一族を救うことなどできもしない姉を守るために、私の水晶は死んだ。……いや、殺されたのです」
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