神様修行はじめます！　其の五
「成重様！　どうか、どうかお考え直しください！」


　我を忘れて空を見上げていたあたしは、水園さんの声にハッと振り向いた。


　地味男の袖に縋った水園さんが、泣き枯らした声を振り絞って必死に懇願している。


　その哀れな姿を地味男の無表情な目がじっと見下ろしていた。


「このようなこと、水晶は望みません！　あの子は誰よりも優しく、清らかな心の持ち主でした。それはあなた様が一番よくご存じのはずです！」


「もちろんですよ、水園殿。だからこそ水晶はあなたの代わりに殺されたのですからね」


　途端に水園さんの頬が強く硬直し、唇が震え、なにも言えなくなってしまう。


　まるで首元を噛まれた子猫のようにヘナヘナと脱力して、地味男の足元に崩れ落ちてしまった。


　水園さんにとって水晶さんの死を指摘されることは、心臓に楔を打ち込まれるのと同じこと。


　どうあっても抵抗できない最大の急所なんだ。


「地味男！　あんた、なんでこんなことすんの！？」


　なにも言えなくなってしまった水園さんに代わって、あたしが叫んだ。


　地味男が水園さんやクレーターさんに復讐するのは分かる。


　常世島の戦いを利用して自分の父親や兄を葬ったのも、自分の出世欲を満たすためじゃない。あれはぜんぶ水晶さんへ捧げる復讐劇だったんだ。


　それは分かるけど、今回の行動だけは理解できない。


「現世を襲うことが、あんたにとってなんの意味があるっていうの！？」


「水晶が愛した『世界』を守るためですよ」


「あんた、人の話聞いてんの！？　だから、『なんで現世を攻撃することが、世界を守ることになるんですか？』って質問してんのよ！」
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