神様修行はじめます! 其の五
「なぜなら現世の存在こそが、我らの不幸の原因だからです」
「……え?」
現世が、あたしたちの不幸の原因?
意味が分からず困惑するあたしとは対照的に、地味男はとても明快な態度だった。
相変わらず三日月のように細めた目で笑いながら、動揺しているあたしに淡々と説明する。
「天内の娘御よ、なぜ我ら神の一族は、異形と戦わねばならぬのか分かりますか?」
「……なぜって、だって襲ってこられたら身を守るためには戦うしかないじゃない」
「正解とは言えませんが、あながち外れとも言えませんね。我らは守る物があるから戦わざるをえないのです」
「そう、だよ?」
「ならば我らはいったい、なにを守るために戦っているのでしょうか?」
「え?」
いきなりそんな根本的なことを聞かれて、思わず言葉に詰まってしまった。
混乱しているあたしを導くように、地味男との会話が続く。
「そもそも我らが遥か神代の時代より、異形から守り続けてきた物は、なんだったでしょうか?」
あたしは以前に門川君のおばあ様から聞いたことを思い出していた。
遥かな神代の時代に、異形に襲われる人々を守るために、特殊な能力を持つ一族が立ち上がった。
それが神と呼ばれる一族の発祥だって聞いた。
「そう。身を守るすべを持たない者たちを守るために、能力を持つ者が命を盾にして戦い、ずっと彼らを守ってきたのです」
「…………」
「ならば、こうは考えてみてはいかがでしょう。『守ることをやめたなら?』」
「え?」
ニコリと微笑みながら小首を傾げる地味男の動きに合わせて、長い髪が揺れる。
「異形は人を襲いたいから、その邪魔をする神の一族と戦うのです。なら、思う存分に人を襲わせたら?」
「……思う存分、異形に人を襲わせる?」
「そう。つまり満足するまでエサを与えるのです。目的が叶った異形は我らと戦う理由がなくなり、我らも異形と戦う意味はなくなる」
ポカンと口を開いたあたしに、地味男の笑顔は微動だにしない。
どこか楽しげにさえ聞こえる声で、彼は言葉を続けた。
「現世を放棄すればいいのです。見捨てればいい。そうすれば我らは戦って傷つくことも、苦しむことも、悲しむこともなくなるのです」
「……え?」
現世が、あたしたちの不幸の原因?
意味が分からず困惑するあたしとは対照的に、地味男はとても明快な態度だった。
相変わらず三日月のように細めた目で笑いながら、動揺しているあたしに淡々と説明する。
「天内の娘御よ、なぜ我ら神の一族は、異形と戦わねばならぬのか分かりますか?」
「……なぜって、だって襲ってこられたら身を守るためには戦うしかないじゃない」
「正解とは言えませんが、あながち外れとも言えませんね。我らは守る物があるから戦わざるをえないのです」
「そう、だよ?」
「ならば我らはいったい、なにを守るために戦っているのでしょうか?」
「え?」
いきなりそんな根本的なことを聞かれて、思わず言葉に詰まってしまった。
混乱しているあたしを導くように、地味男との会話が続く。
「そもそも我らが遥か神代の時代より、異形から守り続けてきた物は、なんだったでしょうか?」
あたしは以前に門川君のおばあ様から聞いたことを思い出していた。
遥かな神代の時代に、異形に襲われる人々を守るために、特殊な能力を持つ一族が立ち上がった。
それが神と呼ばれる一族の発祥だって聞いた。
「そう。身を守るすべを持たない者たちを守るために、能力を持つ者が命を盾にして戦い、ずっと彼らを守ってきたのです」
「…………」
「ならば、こうは考えてみてはいかがでしょう。『守ることをやめたなら?』」
「え?」
ニコリと微笑みながら小首を傾げる地味男の動きに合わせて、長い髪が揺れる。
「異形は人を襲いたいから、その邪魔をする神の一族と戦うのです。なら、思う存分に人を襲わせたら?」
「……思う存分、異形に人を襲わせる?」
「そう。つまり満足するまでエサを与えるのです。目的が叶った異形は我らと戦う理由がなくなり、我らも異形と戦う意味はなくなる」
ポカンと口を開いたあたしに、地味男の笑顔は微動だにしない。
どこか楽しげにさえ聞こえる声で、彼は言葉を続けた。
「現世を放棄すればいいのです。見捨てればいい。そうすれば我らは戦って傷つくことも、苦しむことも、悲しむこともなくなるのです」