神様修行はじめます! 其の五
「道、じゃ」


 地味男が答えようとして口を開いたとき、先に絹糸の声が聞こえた。


 口を閉じた地味男が、その声を聞いて満足そうに口角を上げる。


「さすがは絹糸殿。『道』をご記憶でしたか」


「ふん、忘れてしまうほどまだボケてはおらぬわ」


 いまいましそうな絹糸の言葉に、地味男が軽く笑い声を上げる。


 この深刻な状況に場違いなその声の合間を縫うように、あたしは絹糸に問いかけた。


「ねえ絹糸、『道』ってなに?」


「異形の世界と現世を繋ぐ、『道』があるんじゃよ。空間と空間を結ぶトンネルのような穴じゃ。神代の時代から、異形はその道を通って現世に来ていたんじゃ」


「え? じゃあそのトンネルさえ通れば、異形はこっちに来たい放題じゃん!」


「現世は守られておると言うたであろう。道は隠したんじゃよ」


「隠した?」


「封じることは不可能だったのでな。いつの頃だったか、異形に悟られぬように隠した。そのお陰で大物は現世に来られぬようになったんじゃ」


「じゃあ、やっぱり異形が現世に来るなんて不可能じゃん」


「たしかに近世の異形たちの中で道の存在を知る者は、もはやおらぬであろうな。じゃが……」


 そこまで言って、息が切れたように絹糸は口を噤んだ。


 でもあたしたち全員、絹糸が続けようとしていた説明の先をすでに理解していた。


 絹糸は、遥か昔に隠された道の存在を知っていた。


 なら当然、同じ古代種である神獣たちも道の存在を知っている。


 たぶん、その場所も。


 地味男は道を見つけさせるために古代種を復活させたんだ。


 異形の世界と現世を繋ぐトンネルを復活させて、異形をジャンジャン現世に送り込むつもりなんだ!
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