神様修行はじめます! 其の五
「皆の総意ならば問題はない。水絵巻の使用を許可するとしよう」


 門川君が深くうなづいて、地味男に向かってさっそく指示を出す。


「では正式な手続きを踏んで蔵から運び出し、僕が確認したうえで、それから蛟一族に渡すとしよう」


「せ、僭越ながら、それはお待ちください。当主様」


 オドオドした声が聞こえて、門川君がそちらへ視線を向ける。


 視線の先には、頭をピタリと畳に擦り付けて平伏している、見慣れないオジさんがいた。


 ……誰だろ? あのオジさん。見たことない。


 でも前列に座ってるってことは、かなり位の高い一族の長のはずなんだけどな?


「ねぇ絹糸、あのオジさん知ってる?」


「あれは、小浮気(おぶき)一族の長じゃ。卑屈なほど小心者で、常に物陰に引っ込んでおる、目立たぬ男じゃよ」


 ああ、だから記憶になかったんだ。それにしても……。


「『アレ』ほど目立つ存在なのに目立たないなんて、ある意味すごい才能だね」


「『アレ』? なんのことじゃ?」


 小首を傾げる絹糸に、あたしはコッソリ耳打ちした。


「ほら、アレだよ。『アレ』を見せられたら、絶対に忘れるわけないじゃん」


 その言葉の意味を確かめようと、絹糸がもう一度オジさんの方を向く。


 金色の視線の捉えた先には、ベタッと平伏しているオジさんの、頭頂部。


 黒い物が一本も生えていない、完全に肌色一色の、頭のてっぺんが……。


「……なるほど、見事なり。ほんに一本も生えておらぬのぅ……」


 そう。絹糸が感嘆の声を上げちゃうくらい、生えてないの。


 うぶ毛の毛穴すら完全に消滅した、これがスキンケアのお手本か?ってくらい、ツルッツル。


 なんかもう、思わず指でこすって摩擦抵抗力の確認してみたくなるような、完全無欠な頭頂部。
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