神様修行はじめます! 其の五
 うわ、そうだウッカリしてた! 鐘が鳴ったらしま子も元のサイズに戻るんだった!


「マロさん!」

「承知におじゃる!」


 マロさんが瞬時にあたしの結界を解除してくれたおかげで、大きくなったしま子が無事に飛び出すことができた。


 うおぅ、危ねー危ねー。あたしひとり分の結界の中でしま子が原寸大に戻ったら、大変なことになるところだったよ。


「にいぃ――!」


 ホッと胸を撫で下ろしていると子猫ちゃんの悲痛な泣き声が聞こえて、慌てて空を見上げた。


 そしたらなんと絹糸が、神獣の形態から猫の姿に戻ってしまっている。


 あぁ、ヤバイ! きっと時間切れだ! 龍と猫なんて、特殊トレーラーVS三輪車みたいなもんだよ。こうなったらもう勝てる要素ゼロ!


「ひと口で丸飲みされちゃう前に、逃げて絹糸ー!」


 ワニみたいな鋭い牙だらけの口で絹糸にかぶりつこうとする龍を、絹糸はヒラリとかわした。


 小柄で敏捷な体を生かし、龍の鼻づらにビシッとネコパンチして、その勢いでくるりと反転して素早く龍から離れる。うまい!


 そしてそのまま……


「って、絹糸ったら真っ逆さまに落下してんですけどぉ!?」


 猫の姿になっちゃったら、絹糸は空を飛べないんだった。


 あの高さで地面に激突したらさすがにヤバイだろう!


「待って待って、まだ落ちないでぇー!」


 無我夢中で落下地点に駆け込んだあたしの腕の中に、間一髪でズボッと絹糸が収まってくれてホッとした。


 ドッと冷や汗かいたぁ! ま、間に合ってよかった。心臓止まるかと思ったよ。


「小娘! すぐにここから離れよ!」

「……へ?」


 切羽詰まった絹糸の声に首を傾げるあたしの頭上に、闇よりも濃い影が降りてくる。


 反射的に上を見たら、龍が絹糸を追って超猛スピードで落下してくるのが見えて、あたしの思考が一時停止した。
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