神様修行はじめます! 其の五
「じ、地味男、もうやめて……こんなことしても、どうにもならな……ゲホゲホッ!」


 息を吸い込む量が吐き出す量に伴わなくて、気管と肺が限界の悲鳴を上げている。


 全身から汗が噴き出し、筋肉がピクピク痙攣してきた。


 苦しくて苦しくて、ノドと胸元を手で掻き毟ってもどうにもならず、大きく見開いた目の前がどんどん薄暗くなっていく。


 みんながバタバタと地面に倒れて、もがき苦しんでいる姿が見えた。


 でもすぐにその様子さえ、ボーッと霞む視界の向こうに消えていく。


 意識、途切れる……も……ダ、メ……だ……


 …………


『混迷と次第の往来は稀にして提携の姿を現し、其を視えぬ位置と間に刻む。純然の鍵もて開いた悠久の守護門と言えども、真理、存在、圧倒の前には無力。対極とはつまり、等しきの意味を成すと知るべし』


 意識と共に閉じたあたしの両目が、薄っすらと開いた。


 この、声は………。


 開いた視界の先のすべてが、眩い純白の輝きに包まれていた。


 真っ白に染まった綺麗な光が、地面から発せられる強烈な光を相殺していくのが分かる。


 ヤケドしそうに熱かった地熱もみるみる引いて、ドロリとした異界の臭気が、地面の下に吸い込まれるように消えていく。


 道が……繋がりかけていた道が、また閉ざされた?


 ううん、それだけじゃない。さっきまでの苦しさが冗談みたいにケロッと治ってる。


 鉛みたいに重かった体も一気に軽くなったおかげで、あたしは楽々と起き上がることができた。


 そして、すっかり静まり返った周囲をキョロキョロ忙しく見回して、自分が求めている姿を懸命に探す。


 すると背後から、ザリザリと土を踏みながらこっちに近づいてくる足音がして、あたしはゆっくり振り返った。


 白い羽織袴に黒く染められた、『門』と『川』の模様。


 真っ白な足袋に、真っ白な鼻緒の草履。


 純白の輝きを背負うように現れた、秀麗なる美貌。


 あぁ……


 ようやく、見つけた。


「皆、遅れて済まなかった」


 あたしが求める門川君が、そこにいた。
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