神様修行はじめます! 其の五
 門川当主の、ここ一番の正装に身を包み、一歩一歩ゆっくりと彼がこちらに向かって歩いてくる。


 その落ち着いた歩調は堂々としていて、この緊迫した状況にも、彼がまるで動じていないことを物語っていた。


 いつもと変わらぬ平然とした無表情が、小憎らしいほど頼もしくて、カッコよくて、くやしいけれど思わず胸が熱くなる。


 仲間たちの顔つきも、さっきまでの不安と緊張から、安堵の表情へと変わっていた。


 門川君が彼が姿を現しただけで、こんなにも安心できる。もう大丈夫だって信じられる。


 だって彼は天下無敵の門川家当主。『門川に永久あり』と謳われた、不世出の天才言霊師だから。


「水園殿」


 門川君は、地べたに座り込んでうつむいている水園さんの前に立ち、スッと屈みこんだ。


「申し訳ない、水園殿。きっと守ると約束したのに、僕はあなたを守れなかった」


 水園さんは静かに顔を上げた。


「……いいえ。当主様の手を振り切り、成重様の言いなりになったのは私の意思。当主様が謝罪なされる必要など、どこにもございません」


 涙で濡れた目を瞬かせ、首を横に振りながら水園さんは門川君にそう告げた。


 門川君は悲しそうに、そして一途に水園さんを見つめている。


 ふたりは言葉にならない言葉を交わし合うような、そんな目をして見つめ合い、あたしは、ふたりの様子を黙って見ていた。


 門川君に言いたいこと、いっぱいある。聞きたいこともいっぱいある。


 怒鳴りつけたいし、ぶん殴ってやりたい。できることなら2~3発、蹴りを入れてから一本背負いをキメてやりたい。


 だけど……。
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