神様修行はじめます! 其の五
 あたしは大きく口を開いて、スゥゥーッと大きく息を吸いこんだ。


 そしてそのまま、胸がペタンコになるんじゃないかってくらい(もともとペタンコだけど)、思いっきり勢いをつけて息を吐き出す。


 そして両手でほっぺたをバシバシ叩いて、自分で自分にひたすら言い聞かせた。


 堪えろ、あたし。冷静になれ。とりあえず今じゃない。彼を問い質すのは、今じゃない。


 まずは、この状況をなんとかするのが最優先だ。


 この緊急事態が無事に収拾してから、あたしが聞きたいことも、言いたいことも、やりたいことも全部全部、解放する。


 一本背負いは最後のお楽しみだ。……首を洗って待ってろよ、門川君。


「永久」


 絹糸が、驚いた様子で門川君に声をかけた。


「まさかお前、『道』を隠したのか?」


「いいや」


 門川君は立ち上がり、振り向いた。


 その表情は、さっきまで水園さんと見つめ合っていた時とは打って変わって、淡々とした無表情に戻っている。


 これは完全に戦場モードの顔だ。こういった切り替えの早さは、たいしたもんだよ。さすが戦い慣れしている。


「僕はあちら側に戻って、宝物庫で文献を探していたのだが、見つからなかった」


「お前、あちら側へ戻っておったのか? どうりで気配を探せぬはずじゃ」


「現世にいると見せかけて、裏をかいたんだよ。敵に邪魔されずに文献を調べたかったから」


 門川君がチラリと地味男へ視線を向けて、すぐ戻した。


「でも文献の量が膨大すぎて、この短時間では見つけられなかったんだ。あれは本当に整理が必要だな」


 異形の道を隠すための文献を探していた? 


 ということは、門川君は地味男のたくらみを知っていて、阻止するために動いていたの?
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