神様修行はじめます! 其の五
「うるさいな」


 不愉快そうに眉間にシワを寄せた門川君が、片手の指で簡単な印を組み、その手をスッと上下に切った。


―― ズドドド……!


 身構えるヒマもない。いきなり空から大木のような巨大な氷の矢が、雨あられのごとく次々と降り注いできた。


 それが一本残らず龍の体を貫いて、地面に縫い付けていく。


 うわー、なんかミシンみたい! 地面に響く振動が、両足から全身にビリビリ伝わってくる!


 いまこの状態で歌ったら、すっごいビブラート完璧になりそう!


 龍は胴体を串刺し状態にされながらも、頭部を持ち上げ、大きく左右に振りながら雄叫びを上げ続けている。


 その叫び声のやかましさったら最悪! コイツ、まじで声が狂気で凶器だ! いや、別にシャレじゃなくてね!


「だから、うるさいと言っている」


 ますます眉間のシワを深めた門川君が、印を組んだ手を今度は左右に切った。


 すると、透明な刃物で切り取られたように龍のノドがパックリと開き、金の宝玉が露見する。


 あっという間に宝玉が薄い透明な氷で覆われて、次の瞬間、パリーンと音をたてて砕け散ってしまう。


 力の源を失った龍の体はボロボロ崩れ落ち、白い靄になって霧散した。


 ……その間、ほんの十五秒ほど。


 辺りは嘘のようにシーンと静まり返って、「ふうっ」と息を吐いた門川君が、軽く前髪を掻き上げている仕草をあたしは茫然と眺めた。


 あたしたちがあれほど手こずった神獣を、こんな簡単に倒しちゃったよ、この人。


 さっきの絹糸のセリフじゃないけど本当に門川君て怪物?


 もしかしてあたし、化け物のお嫁さんになるの?


 ……それって嫁入りじゃなくて、ただの生け贄な気がする。


「さすがは門川当主様。あまりにもお見事なお手並みに、言葉もございません」


 背後から声が聞こえて振り向くと、地味男が微笑んでいる。


 どこか愉快そうなその声に、門川君は淡々とした表情でアッサリ答えた。


「なに、龍なら僕も使役している。元から基礎知識があったにすぎないよ」
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