神様修行はじめます! 其の五
「いえいえ、すべては当主様の稀なる力量ゆえにございます」
「ありがとう」
自分に向かって丁寧に頭を下げる地味男の、建て前っぽい言葉をサラリと断ち切り、門川君は本題を切り出した。
「さて、蛟殿。君の本意がこうして知れたところで、どんな申し開きをするつもりだ?」
「……はて、申し開きとは、いかなる意味にございましょうか?」
頭を下げたまま、いかにも不思議そうな声を出す地味男に、門川君が抑揚のない声で答える。
「言葉の通りだ。君は以前、僕にこう言った。『世界の平安に尽くす所存だ』と」
「はい」
「だが君のこれまでの所業を見るに、世界を混迷に陥れようとしているとしか、僕には思えないが?」
「ご無礼を承知で申し上げます。それはいささか、当主様のお心得違いと存じまする」
下げていた頭を、地味男はゆっくりと上げた。
その表情にも、態度にも、まったくうろたえる様子は見えず、実に堂々としている。
「私の志に、一点の曇りも偽りもございません。私の望みはただ、世界の平安のみでございます」
「君の言う『世界』に、どうやら現世は含まれていないようだな」
「いかにも」
地味男は気後れする様子もなく言い切った。細い一重の目が、真っ直ぐに門川君を見つめている。
その堂々たる態度にふさわしく、言葉通りの曇りのない目で彼は言う。
「現世は、もはや我ら神の一族が守るべき場所ではございません。そしてあなた様が守るべき者たちは、こちら側にはいないのです」
「その言葉には同意しかねる」
間髪置かずに門川君が、落ち着いた声で、でもきっぱりと言い返した。
「現世を守ることは、我らの欠くべからざる存在意義。現世を放棄しては、我ら神の一族は生きていけない」
「いけます」
「いいや」
お互いの言葉尻に被さるような、短く、鋭い応酬。そして門川君は瞬きもせず、地味男を見据えたまま小さく首を横に振る。
「守れるものを放棄し、見捨てる。それすなわち逃避であり、己の矜持を見限ることに他ならない」
美しい切れ長の黒い瞳に、ひときわ確固とした光が宿った。
「我らは誇り高き神の一族なのだ。その誇りを捨てたまま、生きてはいくことはできない」
「ありがとう」
自分に向かって丁寧に頭を下げる地味男の、建て前っぽい言葉をサラリと断ち切り、門川君は本題を切り出した。
「さて、蛟殿。君の本意がこうして知れたところで、どんな申し開きをするつもりだ?」
「……はて、申し開きとは、いかなる意味にございましょうか?」
頭を下げたまま、いかにも不思議そうな声を出す地味男に、門川君が抑揚のない声で答える。
「言葉の通りだ。君は以前、僕にこう言った。『世界の平安に尽くす所存だ』と」
「はい」
「だが君のこれまでの所業を見るに、世界を混迷に陥れようとしているとしか、僕には思えないが?」
「ご無礼を承知で申し上げます。それはいささか、当主様のお心得違いと存じまする」
下げていた頭を、地味男はゆっくりと上げた。
その表情にも、態度にも、まったくうろたえる様子は見えず、実に堂々としている。
「私の志に、一点の曇りも偽りもございません。私の望みはただ、世界の平安のみでございます」
「君の言う『世界』に、どうやら現世は含まれていないようだな」
「いかにも」
地味男は気後れする様子もなく言い切った。細い一重の目が、真っ直ぐに門川君を見つめている。
その堂々たる態度にふさわしく、言葉通りの曇りのない目で彼は言う。
「現世は、もはや我ら神の一族が守るべき場所ではございません。そしてあなた様が守るべき者たちは、こちら側にはいないのです」
「その言葉には同意しかねる」
間髪置かずに門川君が、落ち着いた声で、でもきっぱりと言い返した。
「現世を守ることは、我らの欠くべからざる存在意義。現世を放棄しては、我ら神の一族は生きていけない」
「いけます」
「いいや」
お互いの言葉尻に被さるような、短く、鋭い応酬。そして門川君は瞬きもせず、地味男を見据えたまま小さく首を横に振る。
「守れるものを放棄し、見捨てる。それすなわち逃避であり、己の矜持を見限ることに他ならない」
美しい切れ長の黒い瞳に、ひときわ確固とした光が宿った。
「我らは誇り高き神の一族なのだ。その誇りを捨てたまま、生きてはいくことはできない」