神様修行はじめます! 其の五
 バク? どっかで聞いたことあるけど、思い出せない。


 地味男がそのバクって異形を呼び出して、あたしを攻撃したってことか?


 いったいどんな異形なんだろう?


 体がぜんぜん動かないから、なんとか首だけ動かして敵の姿を探したら、異様な生き物がいた。


 ……なにあれ?


 あんな生き物、見たことない。


 四つ足で、鼻が長くて、小型の象って感じ。


 けど象にしては耳も体全体も小さいし、足先には虎みたいにガッシリした太い爪がある。


 しかも、たてがみも生えているのだけれど、それが実に奇妙だった。


 体毛というよりも、あの質感はまるで煙だ。しかもそれ自体が生きているようにグルグルと、絶えず渦巻いている。


「あれが獏じゃ。我や龍も神獣として扱われてはおるが、あの獏の希少性には遠く及ばぬ」


「そんなに珍しい異形ですの?」


「まさか実在するとは思わなんだ。我ですら、実際に見るのはこれが初めてじゃよ」


 絹糸の感嘆する声を、あたしは地面に横たわりながらボーッと聞いていた。


 絹糸ですら見たことない異形? ふぅん、そりゃすごい。


 それじゃあたし、よっぽど珍しい術をかけられちゃったのかなぁ?


 ……あぁ、自分のことなのに、なぜだか他人事のようにしか考えられない。


 なんなんだろう、この奇妙な感覚。覚えがあるんだけれど……。
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