神様修行はじめます! 其の五
 門川君の声のトーンが少し変わった。


 柔らかさの増した響きに、あたしの心がハッとする。


 波打ち際に打ち寄せる水のように、不安がヒタヒタと心を覆った。


「彼女が身にまとう空気のようなものに、僕は惹かれた。どうしようもなく思慕の念を抱いてしまったんだ」


 心臓がドクンと大きく圧迫されて、血の巡りが完全に止まってしまったように感じた。


 門川君の声の柔らかさと、その声で語る言葉が、あたしの心を深い穴底に突き落とす。


 やっぱり……門川君はやっぱり水園さんのこと、好きになっちゃったんだ。


『ずっと続いてほしい』と願っていたあたしの世界は、またひとつ、こうして崩れ去ってしまった。


 彼と過ごした幸せな記憶は、こんなにも確かにあたしの中に存在しているのに。


 信じていたものは本当はとても不安定で、朧で、儚かった。


 あぁ、でもそれは、どうしようもない。


 去ってしまった人が二度と戻ってこないように、時と共に月が移ろいゆくように、それはどうしようもないことなんだ。


 あたしのヒザ小僧が、両目から溢れ出る熱い涙でじっとり濡れる。


 あたしは、しま子に続いてあなたまで失うことを、受け入れなければならないんだね……。


「だから僕は、つい水園殿に向かって何度も無意識に呼んでしまったよ。『母上』とね」


「…………」


 は?
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