神様修行はじめます! 其の五
「え?」


「だから僕は、なんとしても今回の件を誰にも知られたくなかった。特にキミには」


「だからそれ、どういうことなの?」


 あたしは門川君の胸から顔を離そうとしたけど、頭をグッと引き寄せられて、許してもらえなかった。


 仕方なく、そのままの体勢で彼にグチる。


「あたしたちにくらい話してくれても良かったのに。あたし、口は重いよ? 頭はすごく軽いけど」


「よく知っている」


「きっとみんなだって協力してくれたよ」


「だが僕は完全に隔離されていて、詳細を連絡できる状況ではなかった。それに現世が絡むとなれば、デリケートな問題に発展しかねない」


 うん、たしかに。神の一族たちにとって、とにかく現世は腫れ物なんだ。


 その現世絡みの事件にコソコソ関わっていることが万が一バレたら、みんなは痛くもない腹を探られて、処罰されてしまうかも。


 そうなったらマロさんなんてどうする? 塔子さんはいまお腹に赤ちゃんがいるのに。


「僕ひとりで、大事になる前に蛟殿をなんとかするつもりだったんだ。だが水園殿が脅迫に耐えきれず、事が決行されてしまった」


 もはや、自分ひとりの力では収めきれない。


 地味男の企みを阻止するためには、古代種や『道』なんかの、未知の情報を調べなきゃならない。


 その間、地味男を抑えておく者たちがどうしても必要だ。


 そう判断して、門川君はあたしたちを現世に飛ばす苦渋の決断をしたんだ。


「すべて僕の力量不足だ。実に自分が情けなかったよ」


 門川君の恥じ入る声が聞こえる。


 それで門川君は、『キミにだけは知られたくなかった』って言ったのかな?


 まんまと地味男の思惑通りに翻弄されてしまった自分が、恥ずかしかった?


「そんな姿を、あたしに見られたくなかったってこと?」


「それもある。だが僕の本音は……」


 そう言って口を噤んでしまった彼は、またあたしを強く抱きしめた。


 いや、抱きしめるというより、必死にすがり付かれてるような感じだ。


 まるで、なにかに怯えているみたい。いったいどうしたんだろう?


 でも彼の腕の中に閉じ込められて身動きできないあたしは、彼の表情を確かめることもできない。
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