神様修行はじめます! 其の五
「か、門川君。あたしちょっと苦しい」


「悪いがそのまま聞いてくれ。……もしも蛟殿の『現世を見捨てるべし』という主張が上層部に知られることになり、公儀で議論された場合、どうなると思う?」


「地味男の主張に賛成する人は、必ず出てくると思う」


 あたしは現世の人間だから『とんでもない!』って普通に思うけど、これが神の一族側から見れば、そうとばかりも言い切れない。


 地味男の主張に賛成する人たちは、たぶん少なからずいるだろう。


「そうだ。僕はもちろん蛟殿とは相反する意見だが、賛成する者たちに問い詰められたら、自分の意見ばかりを押し通せないんだよ」


 世の中は、正義とか正道とか、人道だけでは済まない場合もある。


 責任者って、場合によってはそういったものを捨てて、仲間全体のためにつらい選択をしなきゃならないときもあるんだ。


 そうか。現世を犠牲にしないために門川君は、今回の件を絶対に誰にも知られるわけにはいかなかったんだ。


 もちろん水園さんの秘密を考慮したこともあるだろうけど。


「仮に、正式に現世を見捨てることが決まった場合、キミはどうする?」


「どうって?」


「これまでと変わらず、僕のそばにいてくれるかい?」


「それは……」


 もちろんだよ。


 そう答えようとしたあたしの声は、口元で止まってしまった。
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