神様修行はじめます! 其の五
 現世には異形と戦える強い力を持った能力者は、いない。あたしが守るしかない。


 仲間が陰から手助けしてくれるかもしれないけど、基本はあたしひとりで戦うことになるから、あたしは現世から離れられなくなる。


 当然、門川君は現世に来られるはずもない。となると、あたしたちはずーっと離れ離れだ。


 いつ終わるともしれない戦いに引き裂かれ、不死の異形という強敵を相手にして、あたしは命を散らすことになるだろう。


「キミは正義に生きる人だ。きっと僕らの恋情より、自分の命より、人々を守ることを選ぶ。でもそれが僕には耐えられなかったんだ」


 門川君の指先が、あたしの髪を撫でる。


 静かに、優しく、何度も、本当にかけがえのない物を愛でるように。


 それが自分の手から奪われてしまうことを、ひどく恐れるように。


「キミは僕の永劫の片羽だ。なのに羽をもがれてしまっては、僕はどうすればいい?」


 彼の声が、震えた。


 まるで己を罰するように、胸の内に秘めていた告白を続ける。


「愛するキミを失いたくない。僕はきっと大儀よりもなによりもキミを選ぶ。あのとき迷わず、しま子よりもキミを選ぼうとしたように」


 利己的な欺瞞。狭量な執着。省みない妄信。


 それはすべて、たったひとつの感情を別の言葉で言い表したものだ。


 その感情とは……『愛』。


 そして人々は、その感情を錦の御旗のように、さも正当であるかのように振りかざす。


 それを知る彼は、これほどまでに自分を恥じているんだ。


 なにを犠牲にしても構わないと思うほど、愛する者を得てしまった自分自身を。
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