神様修行はじめます! 其の五
 あたしと出会う前の門川君なら、こんなことで悩みはしなかったろう。


 彼の心は氷のように冷たかったけれど、その代わり、どこまでも透き通っていたから。


 でもあたしと出会ったばかりに、あなたの強靭な心は透明さを失って、こうして惑い、傷つくことを覚えてしまった。


「……ごめんね、門川君」


 彼の胸にオデコをギュッと押し当てて、小さな声でそうつぶやいた。


 謝ることしかできないあたしの両目が、じわりと滲む。


 ……出会わない方が良かったのかもしれない。


 だってあたしと出会わなければ、恋をしなければ、彼は『弱さ』なんかとは無縁でいられた。


 門川の当主という重すぎる枷に囚われて生きていくのなら、その方がずっとずっと楽だろうに。


 あたしなんかを想ってくれる気持ちが、さらに彼の足枷になる。


 そのことが、彼の命すら脅かすことになってしまうかもしれないのに。


 そうなったら、それはすべてあたしのせいなんだ。


 あたしを守るために、『しま子』という存在が消失してしまったのと同じように。
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