神様修行はじめます! 其の五
 あたしの髪をなでる門川君の指の動きは、いつの間にか止まっていた。


 彼の声は熱を帯び、あたしに話しかけながらも、自分自身に語りかけるように夢中でしゃべり続けている。


「しま子はただ、『大切な者を愛し続け、共にあり続けたい』と純粋に望み続けたんだ」


 おそらくそれが叶わないことを知りながら、それでも望み続けた。


 なぜ?


 キミを心から愛していたから。


 自分の望みが叶おうが叶うまいが、世界がそれを許容しまいが、そんなことはしま子の真意ではなかったろう。


 キミと共にありたいと願い、最後までキミを守り続けることだけは、自分のすべてと引き換えにしても譲れなかった。


「そして……消えちゃったよ」


 あたしの声がまた涙声になる。


 結局、しま子の願いは果たされずに消えてしまった。


 どんなに高尚な志を持っていても、それがどれほど正当な望みであっても、届かない願いは跡形もない夢幻のようなものだ。


 その夢幻を抱えて逝ってしまった者たちを、あたしはどれほど見てきた?


「消えてしまう願いに、どんな意味があるっていうの?」


「消えてはいないよ」


「消えちゃったじゃん」


「じゃあ、キミの中の『しま子』は消えてしまったのか?」


「……!」


「しま子が記憶を失えば、しま子と共に過ごしたあの日々までもが、跡形もなく消滅してしまうのか?」
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