神様修行はじめます! 其の五
 あたしの唇に重ねられる、彼の唇の感触。


 それは冷たさと温もりの混じり合った、彼だけが持つ不思議な特別。


 その特別がこうしてあたしの体温と混じり合うたびに、あたしの胸はこんなに熱く震える。


 わずか一瞬で満ちる、切ない熱さ。そして加速する鼓動。


 彼に愛されていることを知る行為を、このひと時を、あたしのすべてで感じ取りたい。


 唇と唇が出会い、抱きしめ合う、この特別な瞬間を……。


「天内君」


 わずかに離れた彼の唇が、あたしの名前の音を愛しげに紡ぐ。


 ささやく声が吐息となって唇をくすぐった。


「天内君。僕はキミが好きだ。天内君」


 痺れるような幸福感で胸がはち切れてしまいそうで、答える言葉が見つからない。


 代わりに、あたしは微笑みながら軽く身を伸ばして、彼のオデコに自分のオデコをコツンと寄せた。


 あたしの心の言葉を悟ったように、彼が甘く微笑む気配がする。


 まるでジャレ合うみたいにして、お互いの額と鼻先が優しく擦れ合う。


 満ち足りたような、逆に渇望するような不可解な感情が、泉のように体の奥からこんこんと湧き上がった。


「かどかわ、くん……」


 もっと触れて欲しくて、小さな声で彼を呼んだらそれを合図のようにして、門川君の指があたしの顎を支える。


 そして、言葉にならないすべてを乗せて、再び重なるふたつの唇……。


 閉じた目蓋の向こう側にある、見えない彼の存在がこんなにも確かで、嬉しい。


 熱く火照った頬と体に、彼の体から滲むひんやりとした冷気が心地いい。
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