神様修行はじめます! 其の五
 出たな! ここで会ったが百年目!


 あんたにはね、いろいろと言いたいことが、ギカ盛りどんぶり並みにあるんだよ!


 そこで待ってろよ! これからあたしとじっくり膝を交えて、今後のことをよーく話し合おうじゃないの!


 ……と、地味男に向かって威勢よく叫びたかったんだけど、実際はゲホゲホと咳込んでるだけ。


 連発して飛び出てくる咳が苦しくて、さっきから涙がボロボロ流れてくる。


 こ、これじゃ話し合うどころの騒ぎじゃないや。地味男ってば炎の真っ只中に突っ立ってるくせに、なんであんな平然としてられるんだ?


 あ、きっと宝物庫のアイテムを使ってるんだ。ズルイ!


―― キイィィ……ン


 頭の中が茹だるような熱さの中で、不思議な冷気がスゥッと頬を撫でた。


 と思った瞬間。


―― ジュ――――ッ……!


 ギンギンに熱したフライパンに大量の水をぶっかけたような、大きな蒸気音が室内全体に響きわたった。


 空気自体が燃えるように熱かったのに、全身の汗が一瞬で冷えるほどの強烈な冷気を感じて、あたしは震えながら目を剥いた。


 なんと、大火災状態だった室内が、瞬く間に一面の氷で覆われてしまっている。


 壁全体には、壁紙を貼り付けたようなビッチリと厚い氷。


 あたしがいまヘタり込んでる床も、厚い氷が絨毯みたいに敷き詰められて、まるっきりスケートリンク状態だ。


 窓の外の炎もすっかり鎮火して、庭木も、池も、灯籠もなにもかもが、艶やかに輝く氷のオブジェと化してしまっている。


 見渡す限りに炎が猛り狂っていた大舞台が、見渡す限りの寒々しい南極平原になってしまった。


「天内君、無事か?」


 あまりの落差に、わけがわからずポカンとしているあたしに声がかけられる。


 その声の主は当然、この超常現象を起こした張本人だ。


「門川君!」


「キミ、前髪がすっかり焦げてしまっているぞ? ちょっと鏡を見てきたまえ」
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