神様修行はじめます! 其の五
 氷の中に花やフルーツなんかを閉じ込めた、『アイスキューブ』って作品があるけど、まさにあれの炎バージョン。


 炎が激しく乱舞する瞬間を切り取って、永久保存したみたい。


 清水のように無色透明な氷の中で、炎の煌めきが昏々と眠っている様子は、たとえようもなく綺麗だ。


 ……綺麗なんだけど、いったいどうやって炎の氷漬けなんて可能なの? 物理の法則ぶっちぎり。


 門川君って、本当に常識が通用しない人なんだなぁ。あ、本人が常識持ってないからか?


「凍雨くん、油断は禁物だ。相手は古代種だ」


 淡々としている最強(最凶?)の言霊師マスター門川君に、凍雨くんはすっかり心酔している。


「でも完全に火の勢いを封じてますよ! これなら仕留めたも同然です!」


 凍雨くんの言葉が終わらないうちに、『ドンッ』という不穏な振動が足元から響いた。


 音と同時に、目にも止まらぬスピードで何かが氷を突き破って床から飛び出してきて、「うわ!」っと目を見張る。


 あれは……。


「炎の玉!?」


 拳くらいの大きさの炎の玉が、ロケット花火みたいに床から飛び出してきた!


―― ドンッ! ドンッ! ドンッ!


 あちこちの床から次から次へと炎の玉が連続発射されて、すごい勢いで飛び出してくる。


「みんな、伏せて!」


 叫びながら、あたしは氷の床にベタッと腹這いになって頭を抱えた。


 うひゃあ、お腹が冷たい! これじゃお腹壊しちゃいそう!


 でもあの球が直撃したら、絶対にお腹壊すどころじゃ済まない!


 四方八方、無数の炎の玉が弾丸みたいな勢いで、室内をビュンビュン飛び回ってる。


 しかも床や壁に当たった球が、なぜかピンポン玉みたいに軽やかに跳ね返ってやがるし。


 門川君の氷もすごい常識外れだけど、炎の方も充分に常識ないや。これは規格外同士の戦いだ!
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