神様修行はじめます! 其の五
―― ジュッ……ジュッ……


 蒸気音が続けざまに、あちこちから聞こえてくる。


 なんだ?と思って見てみれば、炎の玉が壁や床にバウンドするたび、氷が蒸気を上げながら少しずつ溶けていってる様子が見えた。


 こいつら、氷を溶かそうとしてる。これが狙いなんだ!


 おいコラ、玉! 余計なことするんじゃない!


 氷が溶けたら、せっかく門川君が封じた炎が復活しちゃうじゃんか!


「門川君! この玉、見かけによらず賢いよ! 玉のくせに!」


―― ドゴォッ!


『余計なお世話だ』と言わんばかりの勢いで、炎の玉が、あたしの顔のほんの数センチ横の床に激突した。


 そのひどく重々しいデンジャラスな音に、顔からサーッと血の気が引く。


 ひいぃ~。な、なんで炎が、こんな砲丸投げのボールが落下したみたいな音をたてるの?


 これ、直撃したらヤケドだけじゃすまないじゃん!


 落下した場所には、丸い穴がポカッと開いてしまっている。無意識に穴の中を覗き込もうとした瞬間……


――ボォーッ!


「うぎゃっ!?」


 激しい火柱が穴の中から勢いよく立ち昇り、あたしは間一髪で身をかわした。


 セ、セーフ! 顔面直撃されて直火焼きにされるところだった!


―― ボッ! ゴォォッ!


 仰向けになってドキドキする心臓をなだめていたら、また蒸気音が連続で聞こえてきた。


 すでにあちこちの壁や床の氷が溶かされて、火柱が立ち始めている。


 炎の玉の空中乱舞も一向に止む気配はない。もうアッチもコッチもソッチも、そこら中がボルケーノ。


 仲間も全員、腹這いになって頭を低くしてるのが精いっぱいだ。


 ちょっとでも顔を上げようもんなら、直火焼きコースまっしぐらになりそうなんだもん!


「門川君ー! この危険地帯、なんとかしてくださいー!」


 仰向けになったまま、身動きが取れずに叫ぶあたしの鼻の上スレスレに、ビュンッ!と炎が吹っ飛んでいって皮膚を焼く。


 アチッ、あちち! ひええ、鼻が低くて良かった!


 お願いだよ門川君、一刻も早くなんとかして! じゃないと、あたしの鼻が炭になる!


―― キィィ……ン


 あたしの半泣きの懇願に応えるように、門川君の術の気が満ちる気配がした。


 安心して気を緩めたあたしは、ふと、天井に開いた大穴に目をやる。


 そして、いつの間にかそこにいる黒い影に気がついた。


 ん? あれは……


―― ズシィーー……ン!


『あれは何?』と思う間もなかった。


 黒い影は穴から飛び込んできて、地震のような地響きを立てながら床に着地する。
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