神様修行はじめます! 其の五
「わっ!?」


 床を通して伝わってきた振動のせいで、体がバウンドしてしまった。


 影が降り立った場所の氷が、クモの巣みたいにビシビシと大きくヒビ割れている。


 いきなり登場した巨漢の侵入者を、あたしは呆気にとられて眺めていた。


 一見すれば、虎みたい。


 ちょうどあたしの方にお尻を向けているソイツは、薄い黄色の地肌に黒い縞模様がクッキリ走ってる。


 ぶっとい四本足で四つん這いに立ってる姿は、本当に虎そっくり。だけど……


 お尻から生えてるシッポの数が、すごい!


 いったい何本あるんだ? えぇと、ひとつ、ふたつ……


 げっ、コイツ、シッポが九本もある! ってことは九尾だ!


 九尾の異形なんて絶対ヤバイ系じゃん! またメンドくさそうなのが出てきた!


―― クィッ


 不意に、その九尾がこちらの方を振り向いた。


 一瞬ドキッとしたけど、すぐにあたしは、その異様な光景に全意識を持っていかれて目を剥く。


 そいつの顔は……人間、だった。


 体は間違いなく虎なのに、頭部だけが人間。


 その顔は、まるで血の通っていなさそうな青白い頬をして、細く吊り上がった両目で、こっちをジッと見つめている。


 しかも、その頭部を取り囲むように、小さな赤ん坊の顔がズラリと並んでいた。


 毛髪にあたる部分をまるで飾り立てるように、何人分もの赤ん坊の顔がくっついている。


 その赤ん坊たちがケタケタ笑ったり、ホギャアホギャアと泣いていたりする様子は、不気味以外の何物でもない。


 でもあたしが目を剥いている理由は、その異様な光景が原因じゃなかった。


 ……あれは、なんだろう? まさか……。


「こ、子猫、ちゃん?」


 異形の口に咥えられて、ニチャニチャと音をたてて咀嚼されている、小さな白い毛の固まり。


 真っ赤な血に染まった、あの小さな体は……。


「我が子よ――――!」


 絹糸の絶叫が聞こえて、あたしは目の前と頭の中が真っ白になった。
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