神様修行はじめます! 其の五
 子猫ちゃんが……


 異形に食われた!


「グオォォ――――!」


 瞬時に神獣に変化した絹糸が、ケモノのような雄叫びを上げながら九尾の異形に向かって飛びかかっていく。


 絹糸に全力で体当たりされた衝撃で、異形の口から子猫ちゃんの体がポーンと弾き飛ばされた。


 その小さな体が床に落ちたとき、『ベチョッ』という身の毛のよだつ音が聞こえて、真っ白だったあたしの意識が引っ張り戻される。


 でも子猫ちゃんの周りに飛び散った凄惨な血飛沫を見て、またクラリと意識が遠のいた。


 い、意識飛ばしてる場合じゃない! 一刻も早く子猫ちゃんの所へ……!


「天内さん! 立っちゃだめだ! 危ない!」

「アマンダ! 伏せて!」


 とっさに立ち上がり、無我夢中で走り出したあたしの姿に凍雨くんとお岩さんが悲鳴をあげる。


 間欠泉のように火柱がゴォゴォと立ち昇り、無数の炎の玉が狂喜乱舞する灼熱地獄の中を、あたしは必死の形相で駆け抜けた。


―― ビュッ……!

「アマンダぁ――!」


 お岩さんの金切り声と同時に、自分の右肩越しの背後にわずかな空気の乱れを感じた。


 その微細な気配を察知したあたしは、考える余裕もなく反射的に身をかわす。


 ギリギリ、本当に肩先ギリッギリのところを、恐ろしいスピードで炎の玉が飛んでいくのが見えてゾッとした。


 間一髪の僅差で避けたけれど、体のバランスが崩れたせいであたしはドサッと倒れ込んでしまう。


 そしたらそれがヘッドスライディングの状態になって、あたしの体は氷の上をツーッと滑っていった。


「うわ、うわわ……うわあぁ――!?」


 進行方向には、まるでモグラ叩きゲームみたいに、あちこちから不規則に火柱が燃え上がっている。


 そのデスマッチ戦みたいな場所に、あたしは問答無用で頭っから滑りこんで行った。


 と、止まらない! 炎のせいで氷の上に水の膜が張ってて、摩擦力がゼロになってる!


 あの火柱に突っこんだら……命はない!


「うわあぁぁー!」


 あたしの鼻先や足先を掠めるような至近距離で、火柱が轟々と燃え盛る。


 自分でコントロールすることのできない、いちかバチかの完全な運任せだ。


「きゃああー! ア、アマンダ!」


 お岩さんの悲鳴が聞こえる中、あたしの体は完全にカーリングのストーン状態でスーッと滑っていく。


 そして奇跡的にそのまま子猫ちゃんの側まで滑り込むことに成功した。


 やった! 日頃の行い!
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