神様修行はじめます! 其の五
 マロさん率いる端境一族を取り巻く状況にも、大きな変化があった。


 没落した蛟一族の代わりに、常世島と神の一族を仲介するポストに就任することが決まったんだ。


 これは大抜擢なんだよ。下位一族から一気に地位が急上昇することになるわけで、とってもおめでたい話。


 でも実は、喜んでばかりもいられないのだ。


 だって端境一族にとって、上位一族の階級なんて未知の世界なんだもん。


 まあ、ちょっと想像してみてよ。超セレブなお嬢様グループの中に、新参者の庶民な転校生が単身乗り込まなきゃならない状況をさ。


 考えただけで胃が痛くなる。相手の反応しだいによっては登校拒否だよ。引き籠っちゃうよ。


 実際ね、マロさん、もうすでに何発か先制パンチを食らっちゃってるみたい……。


 なにしろ端境一族って、ついこの前まで奴隷みたいな身分だったから、周り中から見下されてるんだ。


 それが急にまともな扱いされるようになって、門川君とは仲良しになっちゃうし、上位一族のお嬢様だった塔子さんをお嫁にもらうし。


 だからすごくやっかまれてるんだよ。妬みの的になってるの。


 今後、かなり強烈な集中砲火を浴びて、集団イジメの標的にされること必須だ。


 マロさんの神経って下着のレース素材のように繊細でデリケートだから、そんな状況に耐えられるか心配……。


 でもね、この昇進話は断ることもできたのに、マロさんは全部を覚悟のうえで引き受けたんだ。


『また蛟一族のような、常世島を粗雑に扱う一族が就任すれば、せっかく好転した島の環境が逆戻りになりまする。それだけは絶対に阻止しなければなりませぬ』


 そう言ってマロさんは、島の人たちのために大きな苦労を背負う覚悟を決めてくれた。


 自分の一族が上位になれば、そのぶん門川君の力になれるとも言ってた。


 もうじきお父さんになるマロさんは、生まれてくる子どものため、島の人々のため、そして仲間や一族みんなのために、戦う道を選んだんだ。


 その道は高くて厚い壁だらけの道で、この先すごく心配だけど、きっと大丈夫だよね?


 なんたってマロさんには塔子さんがいるんだもん!


 塔子さんなら、どんな壁が目の前に立ちはだかろうが、鼻で笑って片手でブッ壊しながらズンズン突進しそうだし。


 これから夫婦で力を合わせて新たな道に踏み込むふたりを、あたしたち仲間も全力でサポートするつもりだ。
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