神様修行はじめます! 其の五

 この大騒動のせいで、異形の世界と現世を繋ぐ方法があるという事実を誰もが知ることになった。


 それは同時に神の一族たちに、拭い去れない大きな不安をもたらすことになったんだ。


『また同じ過ちを犯す者が現れるかもしれない』って不安を。


 門川君が心配してた通り、やっぱり地味男の考えに同調する人が上層部の中にも数人、現れたんだ。


 あたしにはその人たちのこと、頭から非難することはできない。だって自分の身の安全を第一に考える権利は、誰にでもあると思うから。


 現世を見捨てる案に反対する意見が大多数だったことには、ホッとしたけど。


 それでも、地味男を支持する考えの持ち主が実際にいるってことは、見過ごせない事実だった。


 地味男の計画を実現するために必要だった水絵巻はもう無いからって、油断はできない。


 水絵巻を利用する以外の方法を、誰かが考え出して実行するかもしれない。


 振り込め詐欺みたいな犯罪を見てれば分かるけど、悪知恵を働かせるヤツって、ホントすんごい頭が回るでしょ?


 その能力と努力を別の方向に生かしさえすれば、なんぼでもマトモな人生送れるだろうになぁって、つくづく呆れるぐらいに。


 今回の事件みたいに、なにかが起きたことに気がついてから、慌てて対処に奔走するようでは取り返しがつかなくなる。


 となれば、予防のためにこちらが講じられる手段はひとつだ。


 神の一族の世界と、現世を完全に遮断すること。


 現世に対してなにひとつ干渉ができなくなれば、こんな事件が起きる可能性もなくなる。


 だから今後一切、神の一族は現世とのすべての関わりを禁じて、文字通り『禁断の地』とすることに決定したんだ。


『現世には誰ひとりとして踏み込むべからず。例外なく何事も何人たりとも、一切の干渉は、まかりならぬ』


 もちろんそうすることによる不都合もいっぱいあるから、決定するまで議論はだいぶ白熱したんだけど。


 現状、他に有効な案もないわけで。


 この案を実行するのとしないのとのリスクを比べたら、実行する方がメリットがあるって考えに上層部が落ち着いた。


 そこで持ち上がったのが、あたしの問題。


 あたしはこれまで自由に現世と行き来ができたけど、それはもう許されなくなる。


 だから選択を迫られたんだ。


『神の一族の記憶をすべて消去して、現世で一般人として暮らしていく』という道か。


『もう二度と現世には戻らず、死ぬまでずっと神の一族の世界で暮らしていく』という道かを。
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