神様修行はじめます! 其の五

(またね。真美、またね)


 ノドを枯らすほど思い切り泣きわめきながら、心の中で何度も何度も繰り返す。


 口に出してしまえば嘘になってしまう言葉を。


 二度と言うことはできないだろう、その言葉を。



 ……ねぇ、真美。


 選ばなかったことを、どうか恨まないで。


 愛していないわけじゃない。


 ふたりで過ごした、あのかけがえのない日々を捨ててしまったわけでもない。


 ただ、あたしはあの日、見つけてしまった。


 むせかえるような暑い空気に包まれた、夏の匂いに満ちた校舎の廊下で。


 精いっぱいに鳴く蝉たちの鳴き声に包まれながら、澄んだ冬の朝のような涼しい風を身に纏って立つ、あの人を。


 このうえなく寂しい目をした、あの人と……


 あたしは、出会ってしまったんだ……。



「う、ああぁ……! ああぁぁ――……!」


 真美と別れた道に留まったまま、頬と両手を雨のように濡らして泣くあたしに声をかける人なんて、誰もいなかった。


 あたしは、ひとり。


 どんなに泣いても、どんなに叫んでも、もう決して戻れない。


 あたしはそれを自分で選んだ。


 自分の意思で選んだんだ。



 町は夜の気配を増して、徐々に濃くなる闇色を彩るように、あちこちでポツポツと街灯が灯り始める。


 泣きすぎてボーッとしながらノロノロと顔を上げたあたしは、ようやく自転車をこぎ出した。


 行かなければならない。


 もうひとつの別れを告げるために。


 そうしてあたしは街灯の灯りに導かれるようにして、お父さんとお母さんの待つ家へと向かった。


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