神様修行はじめます! 其の五
「里緒、ほんとにどうしたの? 具合でも悪い? まさか事故に遭ったとか?」
「……違う」
どんどん深刻な表情になって問い詰めてくるお母さんに、あたしは首をフルフル振って否定した。
「真美とちょっとケンカしただけだから心配しないで」
「なんだ、そんなことなの?」
あたしの嘘を信じたらしいお母さんは、気の抜けた顔をした。
そして、からかう口調で聞いてくる。
「で? ケンカの原因は? 人生の大先輩であるお母様が相談に乗ってあげましょうか? 特別に格安料金でね」
そう言ってお母さんは、手揉みしながらヘラヘラ笑ってる。
ねぇお母さん。そんなふざけた表情をしていても、あたしには分かるよ。
あたしを元気づけるために、わざと明るく振る舞ってるんだよね。
お母さんはいつもそうだった。
あたしが落ち込んでる時とか、悲しんでいる時とかに限って、ハイテンションでふざけてばかり。
そんなお母さんを見てると、だんだん『人が真剣に悩んでるってのに!』って腹が立ってきてさ。
ふたりでケンカ腰で言い合ってるうちに、いつの間にか、すっかり気持ちが軽くなってるんだ。
今も、泣いてるあたしを励まそうとしてくれてる。一生懸命笑わそうとしてくれてる。
あたしは、こんなにも愛されているんだ。
なのに……。あたしは……。
こんなひどい娘で、ごめんなさい。あたしは、世界一の親不孝者です……。
「お母さん」
「なに?」
「もしもあたしが、お母さんの望まない未来を選ぼうとしたら、どうする?」
あたしはグスグスと鼻を啜りながら、すべてを打ち明けてしまいたい衝動と戦っていた。
どうせ明日にはすべて消えてなくなるのだとしたら、全部しゃべってしまおうか。
しゃべったところで、とても信じてなんかもらえないだろうけれど。
なにひとつ知らないまま、『思い出』という宝物を他人に勝手に奪い取られてしまうなんて、残酷すぎる。
それなら、せめて……。
「……あぁ、なーるほど。そういう事ね?」
唐突なあたしの質問に困惑していたお母さんが、ニヤッと笑った。
「さては進路のことで真美ちゃんとモメたのね? あんたは一緒の大学に進みたいと思ってるのに、真美ちゃんがあんたとは別の進路を望んでるとか、そういう事でしょ?」
ちょっと呆れたような顔をして、お母さんが腕組みをしながら懇々と諭してくる。
「でもそれは仕方のないことでしょ? 誰かの都合に合わせて、自分の大事な未来を決めるもんじゃないわよ。そんなこと、いくら親友だからって強要しちゃダメよ」
「……違う」
どんどん深刻な表情になって問い詰めてくるお母さんに、あたしは首をフルフル振って否定した。
「真美とちょっとケンカしただけだから心配しないで」
「なんだ、そんなことなの?」
あたしの嘘を信じたらしいお母さんは、気の抜けた顔をした。
そして、からかう口調で聞いてくる。
「で? ケンカの原因は? 人生の大先輩であるお母様が相談に乗ってあげましょうか? 特別に格安料金でね」
そう言ってお母さんは、手揉みしながらヘラヘラ笑ってる。
ねぇお母さん。そんなふざけた表情をしていても、あたしには分かるよ。
あたしを元気づけるために、わざと明るく振る舞ってるんだよね。
お母さんはいつもそうだった。
あたしが落ち込んでる時とか、悲しんでいる時とかに限って、ハイテンションでふざけてばかり。
そんなお母さんを見てると、だんだん『人が真剣に悩んでるってのに!』って腹が立ってきてさ。
ふたりでケンカ腰で言い合ってるうちに、いつの間にか、すっかり気持ちが軽くなってるんだ。
今も、泣いてるあたしを励まそうとしてくれてる。一生懸命笑わそうとしてくれてる。
あたしは、こんなにも愛されているんだ。
なのに……。あたしは……。
こんなひどい娘で、ごめんなさい。あたしは、世界一の親不孝者です……。
「お母さん」
「なに?」
「もしもあたしが、お母さんの望まない未来を選ぼうとしたら、どうする?」
あたしはグスグスと鼻を啜りながら、すべてを打ち明けてしまいたい衝動と戦っていた。
どうせ明日にはすべて消えてなくなるのだとしたら、全部しゃべってしまおうか。
しゃべったところで、とても信じてなんかもらえないだろうけれど。
なにひとつ知らないまま、『思い出』という宝物を他人に勝手に奪い取られてしまうなんて、残酷すぎる。
それなら、せめて……。
「……あぁ、なーるほど。そういう事ね?」
唐突なあたしの質問に困惑していたお母さんが、ニヤッと笑った。
「さては進路のことで真美ちゃんとモメたのね? あんたは一緒の大学に進みたいと思ってるのに、真美ちゃんがあんたとは別の進路を望んでるとか、そういう事でしょ?」
ちょっと呆れたような顔をして、お母さんが腕組みをしながら懇々と諭してくる。
「でもそれは仕方のないことでしょ? 誰かの都合に合わせて、自分の大事な未来を決めるもんじゃないわよ。そんなこと、いくら親友だからって強要しちゃダメよ」