神様修行はじめます! 其の五
「じゃあ、お母さんはどうなの?」


「ん? なにが?」


「だから、あたしがお母さんの望まない未来を選んでもいいの? それを許すの?」


 執拗に食い下がるあたしの様子に、いつもとは違うなにかを感じ取ったらしいお母さんの表情が微妙になる。


「んー……そうねぇ……」


 お母さんは、ふざけた態度を引っ込めて考え込む様子を見せた。


 そうしてちょっとだけ視線を泳がせながら、あたしの質問に真面目に答えてくれた。


「よくはない。けど、反対はできないと思ってる」


「……反対、しないの? それでいいの? たとえばあたしが遠い所へ行ったとしても?」


「そりゃあ、ひとり娘のあんたが自立して家を出ちゃったら寂しいし。地球の反対側とかの遠い所にお嫁に行ったりしたら、嫌だなぁとは思うけど」


 胸がズキンと痛んで、あたしはギュッと唇を噛んだ。


 地球の反対側くらいで済むんなら、どれだけいいか……。


「でも里緒が選んだんなら、どんな道だってお母さんは文句言わない。だって親だもの」


 優しい言葉が、余計に痛い。


 柔らかい布でギリギリと胸を締め付けられるようだ。


 お母さん、そんな優しいこと言わないで。


 もっと責めてよ。いっぱい怒ってよ。いくらでも怒鳴ってよ。


「文句、言ってもいいよ。親なんだから当然の権利じゃん」


 親だからこそ、文句言う権利あるじゃん。


 手塩にかけて育てた娘に、秘密ばっかり持たれて。


 すんごい嘘つかれて。いつもごまかされて。


 あげくに、明日はその娘を生んだことさえ忘れさせられてしまうなんて。


「文句なんか言わないわよー。だって里緒は、里緒自身が幸せになるために生まれてきたんだから」


 思い詰めているあたしに、お母さんは手をヒラヒラと振って笑って言った。


「子どもはね、親が幸せになるための部品じゃないの。『お母さんが可哀そう』とか、『お父さんが怒るから』とかの理由で、自分の幸せな人生を選ばないなんて絶対に間違いだから」
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