神様修行はじめます! 其の五
 なにひとつ事情を知らないはずなのに、まるですべてを知ったうえで言ってくれているような、その言葉が胸に迫る。


 あたしは両手をギュッと握りしめて、心の痛みに堪えた。


「幸せな道じゃ、なかったら?」


 異形の命を奪い続ける道。自分の命も、いつ果てるとも知れない道。


 目先の利益に目がくらんでお互いの足を引っ張り合う、偉いはずの大人たち。


 虐げられて苦しみ抜いたあげくに反旗を翻し、でも力及ばず、愛する人を残して散っていった者たち。


 あたしが選ぼうとしているのは、そんなものばかりで満ちている世界だ。


 その世界に飛び込むという選択が、間違いじゃないという保証はない。


「あたしの選んだ道で幸せになれるなんて限らないじゃん。そんな保証はどこにもないよ」


「なに当たり前のこと言ってるのよ。そもそも『幸せ』の基準とか、平均値なんてものが存在してないんだから、どの道を選べば確実に幸せになれるなんて考え自体がナンセンスよ」


 お母さんはいっそう明るく笑い飛ばした。


「人間ってのはね。どんな道を選ぼうが生きてる以上、悩みも苦労も一生つきまとうようにできてるのよ。でも、大丈夫!」


 そして大きく胸を張り、あたしの肩をポンポン叩いて断言する。


「どんなに苦労したってなんとか生きていけるように、お母さんがちーゃんと里緒を育てたからね! だから安心して、どこでも好きな道に進みなさい!」


「…………」


「それで、どうしてもどうしても、どーしてもダメだったら……お母さんとこに帰ってくればいいんだから」
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