神様修行はじめます! 其の五
「お母さん!」


 たまらず叫びながら、お母さんに思い切り抱き付いた。


「お母さん! お母さん! お母さん!」


 泣きながら夢中でお母さんに頬を寄せれば、いつの間にか少しだけ追い越していた背丈。


 でも両腕を回して感じる背中の感触と温かさは、幼かったあの日となにも変わらない。


 この人が、あたしのお母さん。


 あたしを生み、育て、愛し続けてくれた人。


 忘れない。


 あたしは絶対、なにがあろうと忘れない。


 笑顔も、泣き顔も、喜びも悲しみも、優しさも、愛も。


 あなたが与えたすべてが確かに、この胸にあるから。


 たとえ記憶のすべてが消え失せても、あたしが世界に存在してる。


 あたしという命が在ることが、揺るぎない証なんだ。


「お母さん! お母さん!」


「ちょ、ちょっとちょっと? なんなのいったい? どうしちゃったのよほんとにこの子は」


「にぃー。にー」


 溢れ出す涙と感情をどうしても抑えることができず、全身がはち切れそうになっているあたしの耳に、可憐な鳴き声が聞こえた。


「ほら里緒、しっかりしないと子猫ちゃんに笑われるわよ?」


 そう言うお母さんの足元に、真っ白な綿帽子みたいな子猫ちゃんがチョコンと座ってこちらを見上げている。


 あたしの心を宥めるように輝く金色の瞳を見て、ちょっとだけ気持ちが鎮まった。


 うん、そうだね。その通りだ。


 しっかりしないと子猫ちゃんに笑われてしまう。


 つらい選択をしたのは、あたしだけじゃないんだもの。
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