神様修行はじめます! 其の五
「当主様は、お健やかにお過ごしでおられます」


 雪崩のようなあたしの質問に対して、純白の袴を身につけた中年男性の連絡係さんが、それだけを答えた。


 ……もんのっすんごい、味も素っ気もない淡泊な口調で。


「き、今日の分のお仕事はどうだったの? 順調だったの?」


「お健やかにお過ごしでおられます」


「門川君、ストレスが溜まってきてない? そのせいでトラブルとか起きてない?」


「お健やかにお過ごしでおられます」


「仕事仲間の人たちとは、うまくやってる? 世話係さんに迷惑かけてない?」


「お健やかにお過ごしでおられます」


「……あたしのこと、なんか言ってなかった?」


「お健やかにお過ごしでおられます」


「…………今日もいい天気ですねー」


「お健やかにお過ごしでおられます」


「…………」


 やっぱり。


 そーじゃないかそーじゃないかとは、ずっと前から薄々思っていたんだけど。


 やっぱりこの人、あたしのこと嫌いなんだ!


「おぬし、そう四角四面な受け答えばかりをするでない。せめてもう少し詳しく、永久の近況を聞かせてくれぬか」


 絹糸が声をかけると……。


「申し訳ございません。ですが、しきたりですのでお答えしかねまする」


 とたんに、あたしに対してはあれだけ素っ気なかった口調が、わざとらしいほど柔らかくなる。


「御心配には及びませぬので、なにとぞ、お心を穏やかにしてお任せ下さい」


「うん、わかったよ。心穏やかにお任せするから、門川君の様子をもっとあたしに教えて」


「お健やかにお過ごしでおられます」


 心が、一気にムカついたわーーーー!

 お前なあぁぁぁーーー!
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