神様修行はじめます! 其の五
 泣かないように努力したって、そんなの、無理だった。


「うっ……。ぐすっ……」


「な、なんだ? 急にどうしたんだ?」


 いきなり鼻をすすり始めたあたしを見てビックリしたお父さんに、お母さんが笑いを含んだ声で説明する。


「里緒ったら、進路のことで真美ちゃんとケンカしてナーバスになってるのよ。どうやら卒業後は離れ離れになるらしくて」


「なんだ、そういうことか。いいか里緒、人と人との繋がりってのはなぁ、距離なんてたいして問題じゃないんだぞ?」


 お母さんの説明に納得したお父さんが、真面目な顔で懇々と諭し始めた。


「本当に大切に思う相手とは、どんなに遠く離れていたって、心のどこかが通じているもんだ。お前が本当に真美ちゃんを大事に思っているなら、絶対に離ればなれになることはないんだよ」


「そうよ、里緒。里緒が真美ちゃんを忘れない限り、真美ちゃんが里緒を忘れない限り、絶対にね」


 そんな言葉を聞いたら、余計にたまらなくなってしまう。


 熱い涙と一緒に、ノドの奥から堪えきれない泣き声が一気に込み上げてきた。


「う、ああぁ――……」


 たとえ……


 たとえ真美やお父さんやお母さんが、あたしの存在を忘れてしまっても。


 あたしと過ごした日々のすべてを、忘れ果ててしまったとしても。


 あたしたちが離ればなれになることはない。


 あたしが、真美を忘れない限り。あたしが、お父さんとお母さんを忘れない限り。


 あたしの中に、それらのかけがえのない記憶が刻まれている限り……。
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