神様修行はじめます! 其の五
 薄闇の中に建つ家々の暗い影が、不思議な気配を纏って空間を支配して、まるですでに異界に迷い込んだみたいだ。


 世界中が、息を止めたようにシンと静まり返っている。


 命の気配のひとつも感じられず、点々と続く街灯の小さい無機質な明かりが、アスファルトの白線をおぼろに照らしていた。


 その光と線が延々と続く先の、深い闇があたしを誘う。


 あの場所へ、あたしは行かなければならない。


 あたしはこれから、先の見えないこの暗黒の道を進まなければならないんだ。


「小娘」


 数歩先で、異界の化身である神獣があたしを呼んでいる。


 ……さあ、進め。


 踏み出せ。


 決別するんだ。


 もう二度と戻れない道へ、行け。


「…………」


 額に汗がにじみ、鼓動は激しく、どれほど気は急いても足は一歩も先へ進まない。


 ほら、なにをしている。


 ほら、早く。


 早く!


「あぁ……!」


 限界を超えたあたしは、大きく息を吐き出した。


 そしてドアの取っ手を握りしめたまま、フラフラと崩れ落ちるようにその場に座り込んでしまう。
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