神様修行はじめます! 其の五
「天内君」


 彼の両腕が、ようやくあたしの体をしっかりと抱きしめた。


 あたしが自ら望んで、彼の胸に飛び込んでいくのを待っていたように。


 そうでなければ、自分はこうする資格もないとでも言いたげに。


「天内君、許してくれ」


 耳元に聞こえる、心細い小さな声。


「キミと出会ってしまったこの僕を、どうか許してくれ……」


 そして、いっそう強く抱きしめる。


 彼は心の底からあたしに許しを請いながら、決してこの手を離さない。


 どれほど罪の意識に苦しもうとも、あたしをここから攫ってしまうのだろう。


 だからあたしは……二度とここには戻れない。


 もう二度と、この胸の中から逃れることはできない。


 他の誰でもない、あたし自身が一番それを望んでしまっているから。

< 558 / 587 >

この作品をシェア

pagetop