神様修行はじめます! 其の五
真昼の月と、尽きぬ夢
現世に別れを告げてから、ゆっくり、ゆっくりと時間が過ぎて。
ふと気がつけば、周囲はうっすらと秋の気配が忍び寄り始めていた。
朝晩に吹く風がめっきり涼しくなっていて、ちょっとびっくりする。
「それでもやっぱり、昼間はまだまだ暑いですわねぇ」
「だねー」
「気温差が大きいから、風邪をひかないように気をつけなきゃね。妊婦は体調管理が大変なのよ」
門川本邸の縁側に座って、お岩さんや塔子さんと一緒に見上げる真昼の空は、とってもきれいな青色。
でも中庭にそびえる高い松の木の向こうには、薄灰色の雲がチラホラと見える。
最近やたらと天気に裏切られるんだよなぁ。さっきまで晴天だと思ってたら、いきなり暗くなってドーッと雨が降ったりするし。
「この時期の天気って不安定だよねー」
「女心と秋の空、ですわ」
「それ、なにげに女性蔑視の発言よね。女の心はそんな、生卵みたいにコロコロ転がったりしないわよ」
「ホントですわよね。男の方がよっぽどメンドくさい生き物ですわ」
「うん。今の門川君が、ちょうどそのメンドくさい状態だよねー」
あたしとお岩さんと塔子さんは、顔を見合わせてケラケラと笑った。
そして、しみじみ思う。
人間、なにがあっても笑えるようになるもんだなーって。
あの別離の日から、あたしはしばらく抜け殻状態だった。
本当にね、なんかもう、肉から引き剥がされたぺらっぺらの生皮みたいだったのよ。
中身カラッポ。自分で言うのもなんだけど、完全な生ける屍。
現実を受け止めきれなくて、心と体が乖離してたんだね。きっと。