神様修行はじめます! 其の五
「そういえば、言ってましたね? ええと、『ちんぎょ、らくがん』の美貌……でしたっけ?」


 凍雨君が小首を傾げる。


「そうじゃ。あまりの美しさに、魚も恥じらって水の下に隠れ、雁も見惚れて空から落ちるという意味じゃよ」


「ふ、ふーん。そーなんだぁ。水園さんて、すっごい美人さんなんだねぇー」


 笑って受け答えをしようとしても、どうしても顔の筋肉が麻痺したような笑顔になってしまう。


 あ、いや、門川君のこと、信じるよ? 信じてるよ? 信じてるんだけど……。


 そんな微妙な空気を取り繕うように、お岩さんが話に割って入った。
 

「そんなの、どうせ噂に尾ひれがついて広まったに違いありませんわ。現物見たらガッカリするパターンですわよ。でしょう? セバスチャン」


「いえ、そうでもございません」


 セバスチャンさんがアッサリ首を横に振る。


「水園様とは、学問所が同じだったのです。たしかに大層お美しい方で、優秀な女性でした」


「…………」


 無言になったあたしを見て、お岩さんがセバスチャンさんの腕をヒジで突っついた。


「? なんでございますか?」


「ちょっと。あなた女心ってもんがわかってないですわ」


「はい?」


「そこは嘘でも、『さようでございます』と答えるところなんですわよ」


「ここで嘘を言っても仕方ないでしょう。すぐにバレますから。それよりも彼女は……」


「なんですの?」


「……いえ。なんでもございません」


 なにかを思案するように、セバスチャンさんは黙り込んでしまう。


 再び微妙な空気になった場を盛り上げるように、凍雨君が明るい声を発した。


「きっとその水園さんの、優秀なところが気に入ったんですよ! 永久様って能力の高い人は、男女の別なく評価しますから!」


「そ、そうだよねー? きっとそうだよねー?」


「そうですよ! 美人なんて、絶対に永久様の好みじゃないです! だって永久様の好みって、天内さんなんですから!」


「………」


 果たしてここで、『うん、そうだよねー』と、自分で言い切ってしまっていいものなのだろーか。


 余計に自分がミジメになる気がするんですが……。


「凍雨さん、あなた、ものすごくピントを外してますわ……」


 お岩さんが、溜め息をついた。
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