神様修行はじめます! 其の五
「邪魔しないでセバスチャンさん!」


「ですが、このままですと見たくない物を吐き出されてしまいそうですので」


「だって門川君の身になにかあったんだよ! そうに決まってるのに、こいつら、なんもしゃべってくれないんだもん!」


 気がつけばあたしの声は、涙声になっていた。


 こいつらきっと、自分たちの落ち度を責められるのが嫌で黙っているんだ。


 こんの、バカやろ卑怯者! それどころじゃないでしょ!? 門川君が危険かもしれないってのに!


 門川君の命が……命が……


 危険にさらされていたら、どうしよう!!


「はい。ですから、物事はもっと的確に、かつ効率的に進める必要がございます」


―― バッ!


 いきなりセバスチャンさんが身を翻し、素早く小浮気の人の襟首を両手でギュッと締め上げる。


 そしてそのまま、その体をグンッと持ち上げてしまった。


「……うぎゅぅっ!?」


 首絞め状態で体を浮かせられて、小浮気の人の口から奇妙な声が漏れる。


 当人はもちろん、あたしも他の人たちも、全員ギョッとして目を剥いた。


「セ、セバスチャンさん? あの、その人、首つり状態になっちゃってますけど?」


「さようでございます。それがポイントなのでございます」


 セバスチャンさんは涼しい顔。


 このスリムな体のどこにそんな力があるのかと思うくらい、苦しがって暴れる体を平然と持ち上げている。


 そしてあたしに向かってニッコリ微笑み、優しく語りかけ始めた。


「よろしゅうございますか? 先ほどのお嬢様の締め方では、威力がまったくもって足りません」


「あ、は、はい。すみませんでした……」


「絞めるなら、もっとピンポイントで。見えますか? ここ、ここでございます。この部分をこう、狙いすましてグッと……」


「うぎゅ!? うっぐぅぅ…… ぐぶぅっ!?」


「セ、セバスチャンさん、なんか、すっごい恐怖な音が漏れ聞こえてくるんですけど……」


「はい。コツは気道と、頸動脈。あとは慣れでございますので」
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