神様修行はじめます! 其の五
 本当に、なんでもなさそうな声で絹糸が言う。


 その言葉の内に潜む、神獣の無慈悲さを嗅ぎ取った小浮気の人たちは、声にならない悲鳴をあげて逃げ出そうとした。


―― キィィ……ン!


 とたんに、身震いするほど冷たい一陣の風がサッと吹く。


 仲間を見捨てて走り出した者たちの足が、ほんの一瞬で、透明な厚い氷に床ごと覆われてしまった。


 全員その場に縫い付けられて、身動きできない状態で悲鳴をあげる。


「うわあぁ!? な、なんだ!?」


「ボクも前もって言っておくけど、凍傷になるまであっという間だからな? そうなる前に言えよ」


 凍雨君が小首を微妙にクッと傾げて、小浮気の人たちをジーッと見据えている。


 色白の可愛いらしい顔立ちと、底光りしている両目の迫力のギャップ度が、これまたスゴイ。


「つ、冷たい! ひぃぃ! 痛いぃー!」


「早く言わないと、ヒザから下が切断だよ?」


「さらに前もって言うておくが、この小僧もやるとなったらやる男じゃ」


 セバスチャンさんも、お岩さんも、絹糸も、凍雨君も。


 心底から恐怖に慄いている小浮気の人たちを、完全に無表情で、なんの動揺もなく見おろしている。


 この人たちはね、踏んだ場数が違うんだ。肝の座り具合がハンパじゃないんだよ。
< 70 / 587 >

この作品をシェア

pagetop