神様修行はじめます! 其の五
「すぐに捜索隊を出さなきゃ! 異形のモノにさらわれたのかもしれない!」


 あたしはパニック状態になって髪の毛を掻き毟りながら、オタオタとその場で足踏みをした。


 とっさのことに、いま自分が一番になにをすべきか、どう行動するべきかが、ぜんぜんわからない!


 あぁ、門川君どうか無事でいて! いますぐあたしが助けに行くから!


「いや、その心配はないはずなのだ」


 極限状態のあたしとは対照的に、小浮気の人たちは妙に冷静で、それが見ていてムチャクチャ腹立つ。


 ちょっとアンタら、もっと盛大に慌てなさいよ! この非常時に!


「これってレベル5の緊急事態だよ!? 現実逃避してる場合じゃないでしょ!?」


「当主様の御身に、危険はないはずなのだ。そんな心配をする必要はないと、水園様からの連絡が届いたのだから」


「……はい?」


 髪を掻き毟る手をピタリと止め、あたしはカクッと首を傾げた?


 水園さんから連絡が届いたの? 異形にさらわれて行方不明の水園さんから??


 ……って、まさかそれ、さらった犯人からの身代金の要求じゃないでしょうね!?


「いくら!? 金額いくら! 払えそうな額!? 受け渡し場所はどこ!?」


「小娘、いいからおぬしはちょっと落ち着けぃ」


「天内のお嬢様、大きく深呼吸をしてみましょう」


「いったいなんて連絡してきたの!?」


 裏返った声を張り上げるあたしの目の前に、小さな手鏡がズィッと差し出されて、反射的に覗き込んでしまう。


 鏡の表面を見て、あたしは声を張り上げるのも忘れて思わず見入ってしまった。


 そこに映っているのは、あたしの姿じゃなかった。


 小さな鏡の中には、女のあたしですら意識が引き込まれるほどに美しい、見たことのない女性が映っていた。
< 74 / 587 >

この作品をシェア

pagetop