神様修行はじめます! 其の五
「おお、そうじゃ。この娘が水園じゃ」


 あたしの肩にパッと飛び乗った絹糸が、手鏡を覗き込んでいる。


「しばらく見ぬうちに、また美しゅうなったのぅ。見惚れるほどじゃ」


 絹糸がしみじみと感嘆したけれど、それは決してお世辞でもなんでもない。


 誰もが心からそう納得できるほどの、すっごい美人さんだ。


 なんて言うんだっけ? 顔の『黄金比率』だったっけ?


 人間が、『これぞ完璧な美しさ』と認識する元になるという、パーフェクトな目鼻立ちの配置バランス。


 たぶん水園さんって、その黄金比率の持ち主だ。


 ここまで神々しい美人じゃ、嫉妬する気もおきやしない。ご利益を願って、彼女の顔に向かってお賽銭投げたいくらいだもん。


 それに、闇夜みたいに黒々とした豊かな髪が、艶光りする様は月の輪のよう。


 白い肌は陶器みたいに滑らかで、頬はほんのり薄桃色。唇は、桜の花びらを飾っているかのようだ。


 濡れたように輝く瞳は、まるで宝石。黒真珠と水園さんの瞳を並べて、『どちらを選ぶ?』と聞かれたら、本気で悩んでしまいそう。


 はあぁぁ………つくづく、本当に、美しい人だ。


「以前にも思うたが、やはりそうじゃ」


「なにが?」


「水園は、淡雪によう似ておる」


「え? 門川君のお母さんに?」


「うむ。淡雪もそれはそれは美しい女人であったが、ふたりは醸し出す雰囲気がよう似ておる」


 門川君が子どもの頃に殺されてしまったお母さんに、水園さんがよく似ているのか……。


 門川君がどうして、彼女を自分の側から離したがらなかったのか。


 どうして、庵の中でふたりきりで過ごしたかったのか。


 その理由が分かった気がして、あたしの胸は、複雑にチリチリと痛んだ。
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