神様修行はじめます！ 其の五

　ねぇ？　……と、笑いながら絹糸にかけた声が上擦っているのが、自分で気に障った。


　一緒に笑い飛ばしてほしいのに、これじゃまるであたし自身がそう思い込んでるみたいじゃん。


　そんなはずないじゃんねー。ははは。


　門川君が駆け落ちなんてするはずないじゃん。あたしがいるのに。


　そうだよ。絶対絶対、絶対、彼はそんなことしな……。


「そうなのだ！　つまり門川当主様と、我らが水園様が駆け落ちしてしまわれたのだ！」


「って、アンタそこで思いっきり断言しないでくんない！？」


　興奮して大声を出す小浮気の人に、あたしも負けずに怒鳴り返した。


　どういう神経してんのよ！

　……言うか！？　普通！　たとえ思っていても、あたしの目の前で！


　だいたい水園さんだって、明確なことは何ひとつ言ってないじゃんか！


「ハッキリと『あたしたちこれから駆け落ちします』って、宣言したわけじゃないんでしょ！？」


「だが、言動から考えてそう判断するのが妥当だろうが！」


「いーえ！　ありえません！　あたしがいるのに門川君はそんなことしない！　そもそも門川君は何か言ってたの！？」


「いや、門川当主様のお姿は、鏡に映ってはおられなかった」


「ほおら見ろおーーー！」


　小浮気の人たちにビシッと人さし指を向けつつ、叫び散らした。


　水園さんひとりが意味深なこと言ってたって、門川君からは何もメッセージが届いてないんでしょ！？


　だったらなんの確証もない！


　ただの推測で、そんな恐ろしいこと言わないでよ、もう！　……頼むから！


「ふうむ……。永久が何の手がかりも残さず、消えたか。これは少々、厄介かもしれぬの」


　あたしの肩からヒラリと飛び降りた絹糸が、難しい顔をしてつぶやいた。


「意図が読めぬ。つまりそれは、隠したいということか？　我らにまでも？」


「……絹糸？」


「永久よ、なにがあったのじゃ？　我らに何を望んでおる？」