神様修行はじめます! 其の五
 天を見上げ、そこにいない門川君に問いかけるような、絹糸の真剣な声。


 声だけじゃなくその表情にも、深刻さと憂いが含まれている。


「絹糸? なに? どういう意味なの?」


「永久が異形に襲われた心配は、まずなかろう。座り女の結界も、阿吽(あ・うん)の結界も、破れた気配がない」


「ああ、狛犬ブラザーズの結界ね?」


 この世界全体を異形の襲撃から守っている、座り女の結界。


 そして門川の敷地内全般を守っている、正門の狛犬、阿吽の結界。


 そして、宝物庫付近に張られていた結界。


「実質、永久は三重の結界に守られておった。それらをなんの気配も残さずに破るなど不可能じゃ」


「万が一、異形に襲われたとしても、永久様が抵抗ひとつしないはずがございません」


 セバスチャンさんが、絹糸に同意しながら言葉を続ける。


「ですが、そういった術が使われた形跡もない。やはり永久様は自らのご意思で、姿を隠されたのでしょう」


「でも、どうして? なんで? 理由はなに?」


「じゃから、それが問題なのじゃよ」


 絹糸が、ふぅっと息を吐き、金色の目が悩ましく細められた。


「敵に襲われたならば、手がかりを残す間もなかったろう。じゃが……」


「そうではないのにもかかわらず、永久様は、手がかりをひとつも残さなかったのです」


「そうじゃ。なれば、そこにこそ永久の意思がある。永久は、あえて我らに手がかりを残さなかったのじゃ」


「だから、なんで!?」


 それで急に姿をくらましたら、みんな心配するに決まってんじゃん!


 なんでそんな、わかりきってるようなバカなことしたのよ!? 門川君てば!


 ほらね!? やっぱり彼って隠れバカ要素あるでしょ!? こんな風に!
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