・TimeLetter『DEAR』

当時から影の薄い私だったのだから、きっと葉山君だって私のことなど忘れてしまっているだろう。

卒業以来、一度も会ったことはないし。
十年経った今、葉山君がどこで何をしているかさえも分からないのだ。


「でもさ、私の話を聞いて浩太のこと気になったでしょ? あの頃伝えられなかった気持ち、伝えてくれば?」

「そりゃ、気にならないって言えば嘘になるけど……って、瑞穂ちゃん?」

「浩太が香澄の事を好きだったって聞いて、ちょっとキュンとしてたでしょ?」

「うっ」


イタイ所を突かれてしまった。
確かに瑞穂ちゃんに教えられた瞬間、私の心は当時を思い出してドキドキしてたけど。
あの頃の気持ちを、今更伝えに行ったところで何が変わるというの?


「私もさ、後悔してるんだよね。浩太に香澄との事は任せとけって自分から言い出しといて、結局嫉妬心から香澄に伝えなかった事。だから、浩太に会って私が謝ってたと伝えてほしいな」

「そんな事言われても……」


瑞穂ちゃんに会うのでさえ、十年もかかってしまったのに。
この勢いに任せて、葉山君にも会えと言うの?

もう、あの頃の気持ちは消滅しているのに「好きでした」って伝えるの?
そんなことして、迷惑がかかるかもしれないじゃない。
第一、何でもできる葉山君が独りでいる可能性の方が劇的に低いだろうことは明らかなのに?
< 32 / 56 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop