・TimeLetter『DEAR』
私を抱きしめている葉山君の腕の力が緩み、二人の間には葉山君が手にしていた空色と桜色の二通の手紙が現れ、葉山君は口の端を少し上げて私に言った。
「相変わらず人の言葉を鵜呑みにして、すぐ引き下がるなよ。からかってゴメンって言ったろ? この手紙は俺が瀬戸川に出したんだよ」
「嘘! だって、さっきは違うって」
「嘘じゃないよ。宛先の無い手紙を出したの、瀬戸川だろ?」
「そうだけど」
「……答え合わせ、しよっか」
葉山君はバッグから桜色の手紙を取り出し、私の前に三通の手紙を広げた。
一通は『過去の私へ』と宛先に記入された桜色の手紙、もう一通は『葉山浩太様』と記した私が葉山君に宛てた手紙。
そして私が受け取った『瀬戸川香澄様』と書かれている空色の手紙。
「瀬戸川にタイムレターを届けたのは、俺」
あの日。
当時の同級生たちの実家にタイムレターを配達していた郵便局員の葉山君は、偶然玄関先に居た私に声を掛けたのだと教えてくれた。
「私の家に手紙を届けてくれた配達員さんは、葉山君だったの? どうしてスグに言ってくれなかったの?」
「十年ぶりの再会に驚いたんだよ。まさか配達中に顔を合わせるなんて思ってなかったし」