恋時雨
「楠木さんっ」
そう言って笑いかけてきたのであたしもニコッとしたが、きっとあたしの顔はひきつっていただろう。
「楠木さんの家、この辺なの?」
「あそこのマンション」
あたしは指を差しながら答えた。
「まじで!俺んちもあの6階なんだけど。同じじゃん!俺親が離婚したから、こないだ引っ越してきたんだ」
ニコニコとそう言う彼に少し見とれてしまっていて、ハッとした。
うちのマンションはそれなりに大きいが、全然気づかなかった。
そういえばこの前、引越のトラックが止まっていたような…。
「そうなんだ。じゃあまたね」
あたしは素っ気なくそう言って、彼が来る前に急いで帰った。