私の最後の愛
「あのさ、龍。」
「あ?」
俺を呼んだ声はいつもと少し低い声の虎だった。

「龍は親父さんから聞いたと思うけど、最近繁華街に佐田組がいんだよね。しかもそいつら、ある女の子目当てだってよ。」
「それがどうした。佐田組なんて多田の組が潰すだろうよ。」
フロントミラーを見ながら言うと、虎の目は細くなった。
「佐田組に追いかけられてる子、だいぶ訳ありだよ。なんつったって、坂上グループの娘だからね。」
坂上グループと聞いて俺の眉間に皺が寄るのがわかった。

「坂上グループは佐田組に金を握らされて、多額の借金を負った。そして社長の坂上 肇は佐田組に殺られた。妻もすぐに捕えられたな。そして残ったのは娘だけか。
その娘は母親に逃がされ、行く宛もなくこの繁華街に来たってわけか。ここなら佐田組は入ってこないしな。
でもそれは、今は違う。佐田組は入ってきてる。で?」
俺が簡潔に言うとフロントミラー越しに虎が笑った。

「さすが、龍だね。正解。
で、その娘、坂上希ちゃんっていうんだけど、希は今逃げ回ってる。
桐生組としてはこれ以上佐田組に俺らのシマを荒されるのはごめんだから、希ちゃんを保護するんだってさ。その後、処遇は考えられる。」
< 9 / 155 >

この作品をシェア

pagetop