不思議に不思議な彼女と僕
序章
住宅街の中にポツンと佇む、白壁に赤い屋根の小さな店。
店の周りは道がやたらと狭くて、車がすれ違うのもやっとなその通りには、徒歩と自転車の数が多い。
けれど、道行く人は誰一人として、その店には目もくれない。
誰も彼もが、チラリとも視線を向けることなく、店の前を通り過ぎて行く。
敷地と道路のギリギリのラインには、古びた筒型のポストが置かれていて、その投函口を隠すように“open”と黒いペンキで手書きされた木の板がかけられている。
文字は雨風に晒されてだいぶ色あせ、木の板もすっかり黒ずんでしまって、よくよく近づいてみなければ、そこに書かれた文字なんて読めやしない。
手作り感溢れる雑な白塗りの壁と、所々塗装が禿げかかったうえに、錆び付いてすっかり赤茶けた屋根。
店の入口はすりガラスがはめ込まれた引き戸になっていて、これがまた立て付けが悪くて中々開かない。
まるで来訪者を拒んでいるようなそのドアを、外してしまいそうな勢いで無理やりこじ開ければ、その物凄い音がドアベル代わりとなって、どこからともなくこの店の店主が顔を出す。
性別は女性、年齢は不詳、名前も非公開。
何を聞いても“秘密です”と言って笑う、この店の店主。
「気持ちを伝えるお手伝い致します。あなた好みの便箋を、もしくはお相手好みの封筒を選んで、気持ちを伝えてみませんか?あなたの胸に秘めた想いが、大切な相手に届きますように……」
そう言って彼女は、今日も朗らかに笑う。
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